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福岡地方裁判所小倉支部 昭和43年(ワ)788号 判決

原告 国

訴訟代理人 日浦人司 外五名

被告 北九州市

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一、原告

被告は訴外債務者株式会社丸三商店に対し、別紙目録記載の土地の二七〇〇万六五〇〇分の三四二万七八〇〇の共有持分について、昭和三九年七月八日付売買に基く所有権一部移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二、被告

主文同旨の判決

第二請求原因

一、被告は昭和三九年七月八日、訴外株式会社丸三商店(以下丸三商店という)外八名に対し、別紙目録記載の土地(以下本件土地という)を代金二七〇〇万六五〇〇円で売渡す契約を結んだ。

右契約によれば、本件土地の所有権は右売買代金の完納と同時に買主丸三商店外八名に移転することになつていたので、右買主らは昭和三九年一二月一二日右売買代金を完納し、完納と同時に本件土地の所有権を取得した。丸三商店は右売買代金のうち三四二万七八〇〇円を拠出したので、右同日本件土地につき二七〇〇万六五〇〇分の三四二万七八〇〇の共有持分を取得した。

したがつて、丸三商店は被告に対し、右共有持分についての所有権移転登記請求権を有する。

二、ところで、原告は丸三商店に対し昭和四三年三月四日現在で国税債権八〇九万九五四五円を有するが、丸三商店は現在までこれを納付していない。また同商店は現在右持分以外の財産を有せず、無資力である。

三、よつて、原告は債務者丸三商店に債権者代位して被告に対し、本件土地の二七〇〇万六五〇〇分の三四二万七八〇〇の共有持分について、前記昭和三九年七月八日付売買を原因として、丸三商店への所有権一部移転登記手続を求める。

第三請求原因に対する被告の答弁

一、請求原因第一項のうち、被告が昭和三九年七月八日、丸三商店外八名に対し、本件土地を二七〇〇万六五〇〇円で売渡す契約を結んだこと、右契約によれば、本件土地の所有権は右売買代金の完納と同時に買主に移転することになつていて、右買主らが同年一二月一二日売買代金を完納したので、これと同時に本件土地の所有権を取得したことは認めるが、その余の事実は不知。

二、同第二項の事実は不知。

第四抗弁

一、丸三商店は昭和四二年六月一日、本件土地に対する共有持分を訴外有松栄一に譲渡したので、それ以降丸三商店には何らの権利も存在せず、被告に対する共有持分権移転登記請求権も消滅した。したがつて丸三商店に代位してなす本訴請求は失当である。被告(注、原告の誤りと思われる)は同年一一月三〇日丸三商店に対し本件土地の共有持分を差押えたが、当時右共有持分は有松栄一に譲渡され同人に帰属していたものであるから、右差押は無効である。

二、仮りに右の主張が容れられないとしても、丸三商店は同年六月一日、本件に対する共有持分を有松に譲渡したばかりでなく、他の共有者の同意を得て被告との売買契約に基く買主たる地位を有松に譲渡し、同年一〇月二日被告から右地位の譲渡に承認を得た。したがつて右同日当事者全員の承認の下で被告より直接有松に所有権移転登記手続をなすことが約されたことになるので、被告としては丸三商店に対し所有権移転登記義務はない。

第五抗弁に対する原告の答弁

一、抗弁第一項のうち、被告主張の日に本件土地に対する丸三商店の共有持分が差押えられたことは認めるが、その余は争う。買主は目的物を第三者に転売した後にも登記請求権は失わないものであるから、本件土地に対する共有持分が有松に譲渡されても丸三商店の移転登記請求権は失われない。また本件土地の共有持分が有松に譲渡されたとしても、その旨の移転登記を経由していないのであるから、差押債権者である原告に対抗できず、前記差押は有効である。

二、抗弁第二項は争う。被告ら当事者全員の承認の下で被告より直接有松に移転登記をなすべき合意が成立したとしても、第三者たる原告との間では効力を有するものではたく、丸三商店の登記請求権が消滅することはありえない。

第六証拠〈省略〉

理由

一、被告が昭和三九年七月八日、丸三商店外八名に対し、本件土地を代金二七〇〇万六五〇〇円で売渡す契約を結んだこと、及び同契約によれば、本件土地の所有権は右売買代金の完納と同時に買主に移転することになつていたが、右買主らが同年一二月一二日売買代金を完納したので、これと同時に本件土地の所有権を取得したことは当事者間に争いがない。そして〈証拠省略〉によれば、丸三商店は右売買代金のうち三四二万七八〇〇円を拠出したことが認められるので、前同日丸三商店は本件土地につき二七〇〇万六五〇し分の三四二万七八〇〇の共有持分を取得したものというべく、丸三商店は被告に対し、右共有持分についての所有権移転登記請求権を取得したといわざるをえない。

二、次に前掲〈証拠省略〉によれば、原告は丸三商店に対し昭和四三年三月四日現在で国税債権八〇九万九五四五円を有するが、同商店は、既に昭和三七年一月頃事業を廃止し、昭和三九年当時右共有持分以外の財産を有せず、現在に至るまで無資力であることが認められる、そうすると、特段の事情がない限り、原告は債務者丸三商店に債権者代位して、被告に対し、本件土地の共有持分につき丸三商店への所有権移転登記手続を求めることができるといわざるをえない。

三、被告は、丸三商店が昭利四二年六月一日本件土地に対する共有持分を有松栄一に譲渡したので、丸三商店の被告に対する移転登記請求権は消滅したと主張する。なるほど本件土地の共有持分が有松に譲渡されたことは後記認定のとおりであるが、実体的な権利の変動があれば、それに応じた登記をするために登記請求権は生じるのであり、買主は目的物を第三者に転売しただけでは登記請求権を失うものではないのであるから、被告の右主張ば採用の限りでない。

四、次に被告は、丸三商店は被告に対する買主たる地位を有松に譲渡したと主張する。〈証拠省略〉を総合すると次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  昭和三九年七月八日丸三商店外八名に対しなされた前記売買契約は、以前から被告所有の本件土地を使用していた者に対する払下げ契約であるが、右買受人らは当時浅野町開発協同組合という団体(法人ではない)を作つていた。右買受当時丸三商店は買受資格はあつたものの、既に倒産していて、買受代金を支払う能力がなかつたので、買受人としての権利をすべて訴外大池信市に無償で譲渡することとし、形式は丸三商店が買受けるという形はとつたものの、同商店の負担分三四二万七八〇〇円はすべて右大池が支出した。

(二)  昭和四一年大池信市は本件土地に対する権利義務一切を訴外有松栄一に代金三四二万円で譲渡し、同人は他の組合員の同意を得て前記協同組合に加入した。

(三)ところで、丸三商店外八名に対する前記売買契約の際の約定によれば、買受人に対する所有権移転登記前に買受人が第三者に右契約から生ずる一切の権利義務を譲渡しようとするときは、買受人全員の連署により被告の承認を得なければならないことになつており、被告の承認があつたときは被告から直接第三者に所有権移転登記をすることになつていた。

(四)  そこで昭和四二年六月一日丸三商店及び有松は被告に対し、本件土地に対する丸三商店の権利義務を有松に譲渡したことを通知し、右譲渡の承認を求めるとともに、同日前記協同組合代表理事土居忠志(組合員全員の代理人といつてよい)も被告に対し、右譲渡の承認を求める証明書を差入れた。

(五)  右申請書に基づき被告は、同年一〇月二日付の書面により右譲渡に承認を与えた。ただ買受人の名義が変更になるので、事務手続上、昭和四三年六月一五日被告と有松ら譲受人との間で新しい契約書が取り交された。右契約書によれば、有松は被告に対する丸三商店の権利義務一切を承継し、丸三商店が使用していた本件土地上の被告所有の建物を引続き使用して、その使用料支払債務も承継することになつた。

五、以上認定の事実によると、昭和四二年一〇月二日被告の承認があつたことにより、丸三商店が被告に対し有していた買主としての一切の権利義務は有松に有効に譲渡されたことになり、換言すれば丸三商店は買主としての地位を退いてその地位を有松に譲つたとみることができる。そうすると、単なる中間省略登記の合意がなされた場合と異なり、前同日(注 丸三商店の誤りと思われる)商店は被告に対する買主としての地位を喪失し、同商店に替つて有松が落告に対し直接の買主となつたから、その時点で同商店の被告に対する移転登記請求権は消滅したとみるべきである(同年一一月三〇日原告が丸三商店の共有持分を差押えたことは当事者間に争いがないが、この差押は既に権利を喪失した者に対するものとして効力を生ずるに由ない)。そして右登記請求権の消滅が第三者たる原告に対する関係において効力を有さないという理由はないから、丸三商店を代位してなす原告の請求も失当を免れない。

六、よつて原告の被告に対する本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森永龍彦 寒竹剛 清田賢)

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